はやくおとなになりたい

短歌とぶんがくと漫画を愛する道券はなが超火力こじつけ感想文を書きます。

「CERTIFICATE2018」よかった


2018年に短歌を始められた方々によるネットプリントCERTIFICATE2018を拝読しました。生まれ年ネプリや星座ネプリは様々な歌歴のひとが集まって楽しいですが、短歌デビュー同期で集まるのは同級生感があって、これもまた楽しそう…と羨ましくなりました。

以下、気になった歌を、拙い評ではありますが、一首評させていただきます。




一行も読まれることのないままに僕の旅行に連れ添う文庫 真島朱火


    楽しいけれど不安な旅に、たとえ一行も読まなくても、同行者として本を携えていく…そんな作者の本への愛情が、「連れ添う」から窺えて魅力的でした。文庫本のたよりなさも一首の若々しい印象を助けています。一首全てが結句の「文庫」にかかる頭の重い構造ですが、三句「ままに」で一息つける点や、滑らかな韻律のおかげで、冗長な印象にならずに巧みだと思いました。



むかしむかしうらのあきちにありおというものができるといわれておった たろりずむ


 アリオができたら雇用も拡大して地域経済が活性化するし、おしゃれな服も買えるしと当時わくわくしていた心情も、今になってはすっかり消え失せたそんな諦念と、それを乗り越えた一種の強がりを、茶化すような昔話口調によって想起させる手腕が印象的でした。アリオをひらがなにして今の人は皆アリオを知らないような印象を与えたり、裏の空き地というやや不鮮明な提示をすることで昔話感を強めたり、芸が細かいと思いました。



なんにでも置いてかれてく院内のオルゴールもあいみょんになって ツマリ


 リラックスして待ってもらうために、少し前に流行ったJPOPをオルゴール調にアレンジして流すよくある光景ですが、あまり意識しない。これを捉えた感性が鋭いと思いました。また、最新のアーティストだと思っていたあいみょんさえ「少し前に流行ったもの」扱いされているという気づきが、自分が置いていかれているという初句二句の感慨に、大変な実感を持って響いている点が魅力的でした。四句結句の破調や「置いてかれてく」という幼い口調は、動揺する心情の表れなのかなと思いました。



火を止めて味噌をとかせば暮らしとは余熱のなかを生きていくこと 若枝あらう


 火を止めて味噌をとかすのは日常のありふれた動作ですが、そこに三句以降の気づきを得るのが細やかだと思いました。かつて煮立っていた鍋の火を止め、その余熱で味噌をとくように、暮らしも、大きな出来事が時折あったとしても、普段の日常はその余波を受けて平凡に進んでいくということを思いました。味噌をといているときに鍋の余熱を思うこと、そこから暮らしの余熱的側面に飛躍していくところに技巧とセンスを感じました。



待つことに慣れるしずけさ暦にはもう南天が描かれている 榎本ユミ


 初句二句に、待つことへの寂しさや、それを諦めて凪いだ心情を想起しました。「しずけさ」に、物理的な音の無さと待つ相手からの音信の無さがかかっているようなところも好きでした。三句以降はカレンダーに描かれた南天の鮮やかな色味にはっとさせられると同時に、もう冬になっていたこと、それほどまでに長く待っていたことに気づいた主体の心情が思われて魅力的でした。




心情的にはすべての歌について熱く語らせていただきたかったのですが、紙幅の関係上このような形になりました。すてきなネプリをありがとうございました…!